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札幌高等裁判所 平成5年(ネ)345号 判決 1995年10月31日

平成五年(ネ)第三四七号事件控訴人

佐々木徳雄

(以下「第一審原告佐々木」という。)

平成五年(ネ)第三四七号事件控訴人

・同年(ネ)第三四五号事件被控訴人

宮澤キノエ

(以下「第一審原告宮澤」という。)

平成五年(ネ)第三四七号事件控訴人

石神久男

(以下「第一審原告石神」という。)

右三名訴訟代理人弁護士

髙﨑良一

片岡清三

平成五年(ネ)第三四五号事件控訴人

・同年(ネ)第三四七号事件被控訴人

千歳市

(以下「第一審被告千歳市」という。)

右代表者市長

東川孝

右指定代理人

鳴海重明

外三名

平成五年(ネ)第三四五号事件控訴人

菊池精四郎

(以下「第一審被告菊池」という。)

右両名訴訟代理人弁護士

斎藤祐三

主文

一  第一審原告ら及び第一審被告らの本件控訴をいずれも棄却する。

二  第一審原告佐々木及び第一審原告石神の当審における予備的請求をいずれも棄却する。

三  平成五年(ネ)第三四五号事件の控訴費用は、第一審被告らの負担とし、同年(ネ)第三四七号事件の控訴費用は第一審原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  第一審原告らの控訴の趣旨

1  原判決中、第一審原告らの敗訴部分を取り消す。

2  第一審被告千歳市は、第一審原告佐々木に対し、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件(一)の土地」という。)につき、札幌法務局恵庭出張所昭和五一年三月一六日受付第四四〇七号所有権移転登記(以下「本件(一)の登記」という。)の抹消登記手続をせよ。

3  第一審被告千歳市は、第一審原告宮澤に対し、別紙物件目録(二)記載の土地(以下「本件(二)の土地」という。)につき、札幌法務局恵庭出張所昭和五三年一〇月二六日受付第二一五三四号所有権移転登記(以下「本件(二)の登記」という。)の抹消登記手続をせよ。

4  第一審被告千歳市は、第一審原告石神に対し、別紙物件目録(三)及び(四)記載の各土地(以下「本件(三)、(四)の各土地」という。)につき、札幌法務局恵庭出張所昭和五一年一月九日受付第二四九号所有権移転登記(以下「本件(三)の登記」という。)の抹消登記手続をせよ。

5  当審で追加された予備的請求

(一) 第一審被告千歳市は、第一審原告佐々木に対し、三九八五万円及びこれに対する昭和五一年三月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 第一審被告千歳市は、第一審原告石神に対し、三八七五万円及びこれに対する昭和五一年一月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  右に対する第一審被告千歳市の答弁

1  第一審原告らの控訴をいずれも棄却する。

2  第一審原告佐々木及び第一審原告石神の当審における予備的請求をいずれも棄却する。

三  第一審被告らの控訴の趣旨

1  原判決中、第一審被告らの敗訴部分を取り消す。

2  第一審原告宮澤の第一審被告らに対する右部分の請求を棄却する。

四  右に対する第一審原告宮澤の答弁

第一審被告らの控訴をいずれも棄却する。

第二  当事者の主張

一  請求原因(第一審原告ら)

1  第一審原告佐々木は、本件(一)の土地を所有する。

2  第一審原告宮澤は、本件(二)の土地及び別紙物件目録(五)の土地(以下「本件(五)の土地」という。)を所有する。

3  第一審原告石神は、本件(三)、(四)の各土地を所有する。

4  第一審被告千歳市は、本件各土地につき次のとおり所有権移転登記を経由している。

(一) 本件(一)の土地につき本件(一)の登記

(二) 本件(二)の土地につき本件(二)の登記

(三) 本件(三)、(四)の土地につき本件(三)の登記

(四) 本件(五)の土地につき札幌法務局恵庭出張所昭和五四年九月二五日受付第二〇五六一号所有権移転登記(以下「本件(四)の登記」という。)

5  第一審被告菊地は、本件(五)の土地につき、札幌法務局恵庭出張所昭和六二年一一月二日受付第一四二四一号所有権移転登記(以下「本件(五)の登記」という。)を経由している。

6  よって

(一) 第一審被告千歳市に対し

(1) 第一審原告佐々木は、本件(一)の土地所有権に基づき本件(一)の登記の、

(2) 第一審原告宮澤は、本件(二)の土地所有権に基づき本件(二)の登記の、本件(五)の土地所有権に基づき本件(四)の登記の、

(3) 第一審原告石神は、本件(三)、(四)の土地所有権に基づき本件(三)の登記の各抹消登記手続を求める。

(二) 第一審原告宮澤は、第一審被告菊地に対し、本件(五)の土地所有権に基づき本件(五)の登記の抹消登記手続を求める。

7  第一審原告宮澤の第一審被告千歳市に対する予備的請求原因(本件(五)の土地について)

仮に、第一審原告宮澤の第一審被告千歳市に対する本件(五)の土地についての所有権移転登記抹消登記手続請求が認められないとしても、第一審原告宮澤は、以下のとおり、第一審被告千歳市の不法行為(詐欺)により本件(五)の土地を失い、損害を被ったのでその賠償を求める。

(一) 第一審原告宮澤は、本件(二)、(五)の各土地を周辺の土地と合わせて「富士四丁目ニュータウン」として宅地造成するため、周辺の土地所有者とともに第一審被告千歳市を通じて都市計画法(以下「法」という。)二九条の開発行為の許可申請をするに当たり、本件(五)の土地につき昭和五三年三月一七日第一審被告千歳市と法三二条に基づく協議を行った。

(二) 第一審被告千歳市は、開発行為許可申請にあたっては、公共施設を具体的に特定しなければならないのに、第一審原告宮澤の無知に乗じて、第一審原告宮澤に対し、本件(五)の土地につき公共施設の具体的特定をさせないまま、単に公共施設用地として指定し、本件(五)の土地を一般的な公共用地として第一審被告千歳市に無償提供しなければ第一審原告宮澤の開発行為の完了届けを許可権者である北海道知事(その機関である石狩支庁長)に進達しないと欺罔したため、第一審原告宮澤は、右指導に従わなければ開発行為の許可が得られないと誤信し、本件(五)の土地を第一審被告千歳市に無償提供する旨の意思表示をした。第一審原告宮澤は右意思表示を第一審被告千歳市の詐欺を理由に平成四年一〇月一日の原審第八回口頭弁論期日において取り消す旨の意思表示をした。

(三) 第一審被告千歳市は、昭和六二年一一月二日、第一審被告菊池に本件(五)の土地を売り渡したが、第一審原告宮澤の意思表示の右取消しは詐欺行為について善意である第一審被告菊池に対抗できない。

(四) 本件(五)の土地の面積は、約135.5坪であるところ、その一坪当たりの価格は一〇万円を下らないので、第一審原告宮澤は、第一審被告千歳市の右不法行為により一三五五万円相当の損害を被った。

(五) よって、第一審原告宮澤は、第一審被告千歳市に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、一三五五万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五三年三月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

8  第一審原告佐々木及び同石神の予備的請求原因(当審における新主張)

仮に、第一審原告佐々木及び同石神の第一審被告千歳市に対する前記所有権移転登記抹消登記手続請求は不能であるとしても、右第一審原告らは、第一審被告千歳市に対し、次のとおり代償請求権を有する。

(一) 第一審原告佐々木は、本件(一)の土地を含む自己所有地について宅地造成するため、昭和五〇年七月九日第一審被告千歳市と法三二条に基づく協議を行った。

第一審原告佐々木は、右協議において本件(一)の土地を雨水処理のための公共施設である遊水池の用に供する土地として第一審被告千歳市に無償提供することとなった。

(二) しかし、第一審原告佐々木は、右協議の当時次の事実を知らなかった。

(1) 本件(一)の土地を含む地域においては、昭和四八年六月ころ、第一審被告千歳市の公共下水道計画が策定されていたこと

(2) 近い将来右下水道事業が完成し、本件(一)の土地に設置される遊水池は不要となり、廃止されることが確実に予想されていたこと

(3) 法三二条による協議においては、第一審原告佐々木が本件(一)の土地を公共施設の用に供する土地として第一審被告千歳市に必ずしも無償提供する必要はなく、右公共施設を自ら管理し、あるいは第一審原告佐々木を所有者としたまま管理者のみを第一審被告千歳市と定めることが法上可能なこと

(三) 第一審原告佐々木は、右(二)のことを知らなかったため第一審被告千歳市から本件(一)の土地を無償提供しなければ、法三六条一項による工事完了届けを北海道知事(その機関である石狩支庁長)に進達しないと指導され、本来遊水池など必要がないのにこれが必要である旨及び第一審被告千歳市の意向に従わなければ宅地造成ができない旨誤信し、本件(一)の土地を無償提供をすることに同意したものであり、右意思表示には重大な要素の錯誤がある。

(四) 右遊水池が不要であったことは、右下水道事業計画に基づき、本件(一)の土地を含む地域において昭和五六年五月九日に下水道工事が着工され、同年八月三一日に完成し、そのころ、本件(一)の土地に設置された遊水池は埋め戻されて更地化され、本件(一)の土地は用途廃止となって第一審被告千歳市の普通財産に編入されたことに照らしても明らかである。

(五) しかし、本件(一)の登記の原因は昭和五一年二月九日法四〇条二項による帰属とされており、同法条による所有権取得は原始取得とされているため、錯誤無効を理由として本件(一)の登記の抹消登記手続を請求することは不能である。

(六) よって、第一審原告佐々木は、第一審被告千歳市に対し、所有権移転登記抹消登記手続請求の代償として、本件(一)の土地の価格三九八五万円(本件(一)の土地の面積は七九七平方メートルであるところ、一平方メートル当たりの価格は五万円を下らない。)及びこれに対する本件(一)の登記がなされた昭和五一年三月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(七) 第一審原告石神は、本件(三)、(四)の各土地を含む自己所有地について宅地造成するため、昭和五〇年四月二八日第一審被告千歳市と法三二条に基づく協議を行った。

第一審原告石神は、右協議において本件(三)、(四)の各土地を雨水処理のための公共施設である遊水池の用に供する土地として第一審被告千歳市に無償提供することとなった。

(八) しかし第一審原告石神は、右協議の当時次の事実を知らなかった。

(1) 本件(三)、(四)の各土地を含む地域は、年間降雨量が極めて少なく、又その土壌は火山灰土質であって極めて浸透性が高く、雨水処理のための遊水池施設はそもそも不必要であったこと

(2) 法三二条による協議においては、第一審原告石神が本件(三)、(四)の各土地を公共施設の用に供する土地として第一審被告千歳市に必ずしも無償提供する必要はなく、右公共施設を自ら管理し、あるいは管理者のみを第一審被告千歳市と定めることが可能とされていたこと

(九) 第一審原告石神は、右(八)のことを知らなかったため第一審被告千歳市から本件(三)、(四)の各土地を無償提供しなければ、法三六条一項による工事完了届けを北海道知事に進達しないと指導され、第一審被告千歳市の意向に従わなければ宅地造成ができないものと誤信し、無償提供をすることに同意したものであり、右意思表示は重大な要素の錯誤に基づくものである。

(一〇) しかし、本件(三)、(四)の各土地につきなされた本件(三)の登記の原因は昭和五〇年一〇月九日法四〇条二項による帰属とされていて、同法条による所有権取得は原始取得とされているため、錯誤無効を理由として本件(三)の登記の抹消登記手続を請求することは不能である。

(一一) よって、第一審原告石神は、第一審被告千歳市に対し、所有権移転登記抹消登記手続請求の代償として、本件(三)、(四)の各土地の価格三八七五万円(本件(三)、(四)の各土地の面積は合計七七五平方メートルであるところ、一平方メートル当たりの価格は五万円を下らない。)及びこれに対する本件(三)の登記がなされた昭和五一年一月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  第一審被告千歳市

(一) 第一審原告らがその主張の土地を所有していたこと及び請求原因4、5は認める。

(二) 同7について

(1) (一)は認める。

(2) (二)、(四)は否認する。

(3) (三)のうち、第一審被告千歳市が不法行為(詐欺)をした点は否認するが、その余は認める。

(三) 同8について

(1) (一)は認める。

(2) (二)の(1)は認めるが、その余は否認する。

(3) (三)は否認する。

(4) (四)のうち、遊水池が不要であったこと及び下水道工事の着工時期、完成時期は否認するが、その余は認める。

(5) (五)は認める。

(6) (六)は争う。

(7) (七)は認める。

(8) (八)の(1)のうち、本件(三)、(四)の各土地を含む地域が火山灰土質であったことは認めるが、その余は否認する。

(9) (九)は否認する。

(10) (一〇)は認める。

(11) (一一)は争う。

2  第一審被告菊池

請求原因2のうち第一審原告宮澤が本件(五)の土地を所有していたこと及び請求原因5は認める。

三  抗弁(第一審被告ら、ただし、第一審被告菊池については、本件(五)の土地に関する部分のみ。)

1  第一審被告千歳市は、本件各土地につき、第一審原告らと法三二条に基づく協議を成立させた上、法四〇条二項に基づき適法に所有権を取得した。したがって、第一審原告らの所有権に基づく抹消登記手続請求及び所有権侵害を理由とする損害賠償請求、代償請求はいずれも理由がない。

(一) 法三二条に基づく協議の成立

(1) 第一審原告佐々木は、本件(一)の土地を含む自己所有地について「北信濃団地」として宅地造成をするため法二九条による開発行為の許可申請手続をするに当たり、昭和五〇年七月九日第一審被告千歳市と法三二条に基づく協議を行い、第一審原告佐々木と第一審被告千歳市との間に、本件(一)の土地を遊水池の用に供する土地として第一審原告佐々木が第一審被告千歳市に無償提供することの協議が成立した。

(2) 第一審原告宮澤は、本件(二)、(五)の各土地を第一審原告宮澤を含む七名の所有土地と合わせて「富士四丁目ニュータウン」として宅地造成するため前同様の開発行為の許可申請手続きをするに当たり、昭和五三年三月一七日第一審原告宮澤及び右七名の代表事業主原美文(以下「原」という。)と第一審被告千歳市との間に法三二条に基づく協議が次のとおり成立した。

ア 第一審原告宮澤は、第一審被告千歳市に対し、本件(二)の土地を遊水池の用に供する土地として無償提供すること

イ 第一審原告宮澤は、第一審被告千歳市に対し、本件(五)の土地を公共施設ないし公共施設用地(広場又は法一一条一項二号、五号、六号のいずれかの用途に供される土地)として無償提供すること

(3) 第一審原告石神は、本件(三)、(四)の各土地含む自己所有地について「希望ヶ丘団地」として宅地造成するため前同様の開発行為の許可申請手続きをするに当たり、昭和五〇年四月二六日第一審被告千歳市と法三二条に基づく協議を行い、第一審原告石神と第一審被告千歳市との間に本件(三)、(四)の各土地を遊水池の用に供する土地として第一審原告石神が第一審被告千歳市に無償提供することの協議が成立した。

(4) 新設される公共施設は、これが存する市町村が管理するのが原則であり(法三九条本文)、開発許可を受けた者が自ら管理する旨の協議が成立した場合は右許可を受けた者が管理者になる(同条ただし書)。第一審原告らと第一審被告千歳市とは、法三二条の協議により、本件(一)ないし(四)の土地に新設される遊水池の管理者を第一審被告千歳市と定めた。

(二) 本件(一)ないし(四)の各土地に設置される遊水池は、いずれも法四条一四項、同法施行令(以下「施行令」という。)一条の二所定の下水道であって公共施設に該当する。すなわち、

(1) 開発行為をするに当たっては、下水道法二条一号に規定する下水(汚水又は雨水)を有効に排出する排水施設を設置することが必要とされる(法三三条一項三号)。右の排水施設は、放流先の排水能力、利水の状況その他の状況を勘案して開発区域内の下水を有効かつ適切に排出できるように、下水道、排水路その他の排水施設又は河川その他の公共の水域若しくは海域に接続していることが必要であり、放流先(下水道、排水路、河川等)の排水能力によりやむを得ないと認められるときは、一時雨水を貯留する遊水池を設けることができる(施行令二六条二号)。遊水池は、開発区域内に下水道が完備するまでの、一時的、暫定的な雨水貯留施設であり、下水道に代替する機能を果たす排水施設である。

(2) 下水道法二条二号所定の下水道は、最広義の概念であり、あらゆる下水の排水施設を含む。したがって、半永久的に、恒久的施設又は一時的、暫定的施設であるか否かを問わず、下水を処理するために設けられる排水施設(かんがい排水施設を除く。)、これに接続して下水を処理するために設けられる処理施設(屎尿浄化槽を除く。)、これらの施設を補完するために設けられる施設は、すべて下水道の各一部であり、右各施設の総体が「下水道」と称されるから、本件(一)ないし(四)の各土地の遊水池がいずれも「下水道の一部」に該当することは明かである。

(三) 本件(五)の土地について

(1) 本件(五)の土地は、法四条一四項所定のその他の公共施設である広場又は法一一条一項二号、五号、六号のいずれかの公共施設の用途に供される土地である。

(2) 本件(五)の土地は、公共施設である広場(施行令一条の二)に該当する。

広場は、都市施設である「公共空地」(法一一条一項二号)でもあり、道路、公園、河川等と異なって法及びその関連法規上特段の細目規定は存しないから、いわゆる更地状態の空地であればよく、具体的な公共施設が設置される必要はない。

(3) 本件(五)の土地は、開発区域内の土地のうち最も標高が低い沢地状の低地であったが、開発行為により盛土、整地等の造成工事がなされて平坦化され、公共施設である広場が設置されたものである。

そして、第一審被告千歳市は、本件(五)の土地を開発工事完了後、更地状態で近隣の住民に開放していたのであるから、その利用状況如何にかかわらず、公共施設たる広場の用途に供していたと解すべきである。

(四) 法四〇条による所有権帰属

(1) 本件(一)の土地に関する開発行為の許可申請に対し、昭和五〇年八月八日石狩支庁長(許可権者である北海道知事の機関)から許可処分がなされ、開発工事が施工され、昭和五一年二月九日工事完了公告がなされた。本件(一)の土地は、右公告がなされた日の翌日の同月一〇日、法四〇条二項により第一審被告千歳市に帰属した。

(2) 本件(二)、(五)の各土地に関する開発行為の許可申請に対し、昭和五三年三月三〇日石狩支庁長(許可権者である北海道知事の機関)から許可処分がなされ、開発工事が施行され、同年一〇月一六日工事完了公告がなされた。本件(二)、(五)の各土地は、右公告がなされた日の翌日の同月一七日、法四〇条二項により第一審被告千歳市に帰属した。第一審被告千歳市は、昭和六二年一一月二日第一審被告菊池に本件(五)の土地を売却し、本件(五)の登記がなされた。

(3) 本件(三)、(四)の各土地に関する開発行為の許可申請に対し、昭和五〇年五月八日石狩支庁長(許可権者である北海道知事の機関)から許可処分がなされ、開発工事が施工され、同年一〇月八日工事完了公告がなされた。本件(三)、(四)の各土地は、右公告がなされた日の翌日の同月九日、法四〇条二項により第一審被告千歳市に帰属した。

2  仮定抗弁(一)(本件各土地の贈与)

仮に法四〇条二項による第一審被告千歳市の本件各土地の所有権帰属が認められないとしても、第一審被告千歳市と第一審原告らとの前記1の(一)の(1)ないし(3)の協議の成立により、第一審原告らはそれぞれその所有する本件各土地を第一審被告千歳市に贈与したことになり、右贈与によってそれぞれ本件各土地の所有権を喪失した。

3  仮定抗弁(二)(本件(二)、(五)の各土地に関する組合契約)

第一審原告宮澤を含むその周辺土地所有者ら七名は、「富士四丁目ニュータウン」の宅地造成を目的として開発行為の許可申請をしたものであり、開発行為による対象土地の所有権の範囲等に著しい変化を生じることを考えると、右申請者はそれぞれの費用と所有地を出資して開発行為という共同事業を営むことを合意したというほかなく、組合契約ないしこれに類似する契約を締結したものということができ、本件(二)、(五)の各土地は組合財産になる。

したがって、第一審原告宮澤は、本件(二)、(五)の各土地につき共有持分の主張が許されるに過ぎず、本件(二)、(五)の各土地の所有権を単独で主張することはできず、これらの土地に関する第一審被告らに対する請求は理由がない。

4  仮定抗弁(三)(本件(五)の土地の時効取得)

(一) 第一審被告千歳市は、昭和五三年一〇月一七日法四〇条二項により、本件(五)の土地を所有する意思の下に、平穏、公然、善意、無過失で占有を継続してきた。

(二) 第一審被告菊池は、昭和六二年一一月二日第一審被告千歳市から本件(五)の土地を買い受け、以後第一審被告千歳市の占有を承継して本件(五)の土地を占有してきたから、第一審被告千歳市の占有開始から一〇年後の昭和六三年一〇月一七日の経過により本件(五)の土地所有権を時効により取得した。

四  抗弁に対する認否

1  第一審原告佐々木

抗弁1の(一)の(1)、(四)の(1)前段の事実は認める。本件(一)の土地に設置された遊水池の管理者は第一審被告千歳市ではないから、同被告に法四〇条二項により所有権が帰属することはない。

2  第一審原告宮澤

(一) 抗弁1の(一)の(2)のア、(四)の(2)(第一審被告千歳市に本件(二)、(五)の各土地が帰属したことを除く。)は認める。

(二) 抗弁1の(一)の(2)のイ、(三)、3及び4は争う。

(三) 本件(五)の土地については、法四条一四項の公共施設用地ではなかったから法四〇条二項により第一審被告千歳市に帰属することはない。すなわち、法三二条の協議の時点から法四〇条二項による所有権帰属の時点まで、その使用目的が定められたことはなく、公共施設用地とはされていなかった。第一審被告千歳市は、法三二条の第一審原告宮澤との協議の時点では本件(五)の土地の用途について何らの具体的理由も根拠もなく、強制的にあるいは詐欺的に法四〇条により本件(五)の土地を第一審被告千歳市に帰属させようとしていたに過ぎない。第一審被告千歳市が本件(五)の土地の用途を決めたのは、第一審被告千歳市に所有権移転登記がなされた後である。

3  第一審原告石神

抗弁1の(一)の(3)、(四)の(3)前段の事実は認める。本件(三)、(四)の土地に設置された遊水池の管理者は第一審被告千歳市ではないから同被告に法四〇条二項により所有権が帰属することはない。

4  第一審原告ら三名

(一) 抗弁1の(一)の(4)は否認する。

(二) 同1の(二)及び2は争う。

遊水池は、施行令一条の二所定の下水道に該当せず、法四条一四項所定の公共施設とはいえない。

(1) 下水道とは、下水を処理するために設けられる排水管、排水渠その他の排水施設、これに接続して下水を処理するために設けられる処理施設又はこれらの施設を補完するために設けられるポンプその他の施設の総体を指す。

(2) 本件(一)ないし(四)の各土地に設置が予定されていた遊水池は、公共用水域に排出する排水管が完備されない場合に、これによって処理できない雨水、融雪水を集める池を設けることによって雨水等を処理することを目的とし、雨水等を一時的、暫定的に貯留し、地下に浸透させることで処理する施設であるとともに、遊水池によってはさらに遊水池から貯留した雨水等を下水道本管に排出する施設である。

(3) 施行令一条の二所定の下水道は、半永久的ないし恒久的な施設の総体をいうところ、前記(2)の遊水池は、下水道施設が完備されるまでの一時的施設であり、また、総体でなく、雨水の貯留を主目的とする極一部分の施設に過ぎない。

五  再抗弁(第一審原告ら)

1  錯誤

(一) 本件(二)の土地についての第一審原告宮澤の錯誤

(1) 第一審原告宮澤は、本件(二)、(五)の各土地について、前記のとおり昭和五三年三月一七日第一審被告千歳市と法三二条に基づく協議を行い、第一審原告宮澤は、右協議において本件(二)の土地を公共施設である遊水池の用に供する土地として第一審被告千歳市に無償提供することとなった。

(2) しかし、第一審原告宮澤は、右協議の当時次の事実を知らなかった。

ア 本件(二)の土地を含む地域においては、昭和四八年六月ころ、第一審被告千歳市の公共下水道計画が策定されていたこと

イ 近い将来右下水道工事が完了し、本件(二)の土地に設置される遊水池は不要となり、廃止されることが確実に予想されていたこと

ウ 法三二条による協議においては、第一審原告宮澤が本件(二)の土地を公共施設の用に供する土地として第一審被告千歳市に必ずしも無償提供する必要はなく、右公共施設を自ら管理し、あるいは第一審原告宮澤を所有者としたまま管理者のみを第一審被告千歳市と定めることが可能であったこと

(3) 第一審原告宮澤は、第一審被告千歳市から本件(二)の土地を無償提供しなければ、法三六条一項による工事完了届けを北海道知事(その機関である石狩支庁長)に進達しないと指導され、本件遊水池など必要がないのにこれが必要である旨及び第一審被告千歳市の意向に従わなければ宅地造成ができない旨誤信し、本件(二)の土地の無償提供申出をしたものであり、右意思表示には重大な要素の錯誤がある。

(4) 右遊水池が不要であったことは、右下水道事業計画に基づき、本件(二)の土地を含む地域において昭和六〇年一月三〇日ころまでに下水道工事が完了し、昭和六一年ころまでに埋め戻されて用途廃止となり、現況は更地となって第一審被告千歳市の普通財産に編入されたことに照らしても明かである。

(二) 本件(五)の土地についての第一審原告宮澤の錯誤

第一審原告宮澤は、請求原因7の(一)、(二)記載のとおり、本件(五)の土地を無償提供する旨錯誤に基づき意思表示をしたのであるから、第一審被告千歳市は、法四〇条二項によっても贈与によっても本件(五)の各土地を取得することはできない。

(三) 第一審原告佐々木(本件(一)の土地)及び第一審原告石神の錯誤(本件(三)、(四)の各土地)

第一審原告佐々木及び第一審原告石神は、請求原因8の(一)ないし(四)、(七)ないし(九)記載のとおり、本件(一)、(三)、(四)の各土地を無償提供する旨錯誤に基づき意思表示をしたのであるから、第一審被告千歳市は、法四〇条二項によっても贈与によっても本件(一)、(三)、(四)の土地を取得することはできない。

2  権利の濫用

第一審被告千歳市は、本件(一)及び(二)の各土地について、やがて下水道が完備され、遊水池が不要になることを熟知し、右各土地を普通財産に編入することを当初から予定していたものであり、第一審被告千歳市が本件(一)及び(二)の各土地について原始取得を主張しその帰属に至る過程における第一審原告らの錯誤の主張を封じることは、権利の濫用として許されない。

3  解除条件

第一審原告ら三名の本件(一)ないし(四)の各土地の無償提供の申し出には、右各土地上の遊水池が埋め戻されて更地となった場合は、第一審原告ら三名に右各土地の所有権を復帰させるとの条件が付されていた。

六  再抗弁に対する認否(第一審被告ら)

1  再抗弁1の(一)の(1)、(2)のア、(4)のうち下水道工事が完了して本件(二)の土地が埋め戻されて更地となり第一審被告千歳市の普通財産に編入されたことは認めるが、(一)のその余の部分は否認する。

2  同1の(二)、(三)についての認否は、請求原因7の(一)、(二)、同8の(一)ないし(四)、(七)ないし(九)に対する認否と同一であるからこれを引用する。なお、法四〇条二項による所有権帰属の法的性質は原始取得であるから、錯誤の条項が適用される余地はない。

3  同2については争う。

4  同3は否認する。

第三  証拠関係は、原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一  主位的請求について

一  請求原因4、5及び第一審原告らがその主張の土地を所有していたことは、当事者間に争いがない。

二  抗弁1について

1  第一審被告千歳市と第一審原告佐々木との間で抗弁1の(一)の(1)、(四)の(1)前段の各事実は争いがない。

2  第一審被告千歳市と第一審原告宮澤との間で抗弁1の(一)の(2)のア、(四)の(2)前段の各事実は争いがない。

3  第一審被告千歳市と第一審原告石神との間で抗弁1の(一)の(3)、(四)の(3)前段の各事実は争いがない。

4  抗弁1の(一)の(4)の事実について

開発行為により設置された公共施設の管理を適正に行うため、管理の主体は原則として市町村とする旨定められているが(法三九条本文)、法三二条の協議で別段の定めをすることが可能である(法三九条ただし書)ところ、証拠(第一審原告佐々木については乙一、二の各1、2、第一審原告宮澤の代表事業主原については乙一二の1、第一審原告石神については甲六、乙二二の1、二三)及び弁論の全趣旨によれば、第一審原告らは法三二条による第一審被告千歳市との協議により、本件(一)ないし(四)の各土地に設置される遊水池の管理者を第一審被告千歳市と定め、その用地である本件(一)ないし(四)の各土地を第一審被告千歳市に帰属させることを合意したことが認められる。

5  本件(一)ないし(四)の各土地の遊水池について

(一) 第一審被告千歳市は、本件(一)ないし(四)の各土地に設置される予定の遊水池は法四条一四項、施行令一条の二に規定する下水道に該当する公共施設であり、右各土地は法四〇条二項により公共施設の用に供する土地として管理者となるべき第一審被告千歳市に帰属したと主張するところ、第一審原告らは、遊水池は下水道に該当せず公共施設に該当しないと主張する。問題は遊水池が下水道に該当するか否かである。

(二) 証拠(本件(一)の土地については乙一の3、4、7ないし9、二の1、2、本件(二)の土地については乙一一の2、3、9、12ないし14、本件(三)、(四)の各土地については甲六、乙二二の2ないし4、7、8、本件(一)ないし(四)の各土地について乙六三)によれば、第一審原告らが設置することを予定していた遊水池は次のような施設であったことが認められる。

(1) 本件(一)の土地に第一審原告佐々木が設置する予定の排水施設は、開発区域の雨水を排水管により本件(一)の土地に設置する遊水池に導入し、さらに右遊水池から下水道本管に接続するというものである。

(2) 本件(二)の土地に第一審原告宮澤が設置する予定の排水施設は、開発区域の雨水を排水管により本件(二)の土地に設置する遊水池に導入するというものである。

(3) 本件(三)、(四)の各土地に第一審原告石神が設置する予定の排水施設は、開発区域の雨水を排水管により本件(三)、(四)の各土地に設置する遊水池に導入し、さらにU字溝により道路に接続し、最終的には勇舞川に排水するというものである。

(4) 右各遊水池は、いずれも法三三条一項三号、施行令二六条二号、都市計画法施行規則二二条、二六条に従い各開発区域に予想される降雨量に基づき有効容量を計算して設計され、開発行為により設置することが予定されていた施設であり、開発区域の雨水を処理するために必要な施設であった。各開発区域は、第一審被告千歳市が策定した公共下水道事業の基本計画の処理区域に含まれ、いずれは下水道事業が実施されることが予定されていた地域であり、右下水道が整備された場合には遊水池としての用途が廃止されることが予想されたが、第一審原告らの開発行為の許可申請の当時においては、右下水道事業の具体的な実施の時期はいずれの開発区域についても未定であって、右各遊水池はこれを前提に設置することとされたものである。

(三) 法四条所定の公共施設である施行令一条の二に定める下水道とは「下水を排水するために設けられる排水管、排水渠その他の排水施設、これに接続して下水を処理するために設けられる処理施設又はこれらの施設を補完するために設けられるポンプ施設その他の施設の総体」(下水道法二条二号参照)をいうものと解されるが、右認定事実によれば、前記各遊水池は、本件(一)ないし(三)の各土地にかかる開発区域の雨水の排水施設又は処理施設ということができるのであって、その機能に照らすと下水道法二条二号所定の下水道の一部を構成する施設であるということができる(下水道法二条二号は恒久的な施設か暫定的な施設かによって下水道に該当するか否かを区別していない。)から、法四〇条二項所定の開発行為により設置される公共施設に該当し、本件(一)ないし(四)の各土地はその用に供される土地であったものと認められる。

6  したがって、本件(一)ないし(四)の各土地は、法四〇条二項により、法三六条三項の工事完了公告の翌日である本件(一)の土地については昭和五一年二月一〇日に、本件(二)の土地については昭和五三年一〇月一七日に、本件(三)、(四)の各土地については昭和五〇年一〇月九日に、前示の各協議によりそれぞれ管理者となるべき第一審被告千歳市に帰属したということができる。本件(一)ないし(四)の各土地に関する第一審被告千歳市の抗弁1は理由がある。

7  本件(五)の土地について

(一)  法四〇条二項は、開発許可を受けた開発行為により設置された公共施設の用に供する土地は、法三九条の規定により右公共施設を管理すべき者に帰属する旨を規定し、右公共施設とは、法四条一四項、施行令一条の二に定める施設をいうものであるが、法四〇条二項に「開発行為により設置された」公共施設とあり、同条は文理上既に設置された又は少なくとも設置が具体的に定められた施設の供用地の帰属を定める趣旨の規定であること、同法三九条も同様に開発許可を受けた開発行為により設置された公共施設の管理者を定める同趣旨の規定であること、開発行為の申請者は設置される公共施設の管理者となるべき者と予め協議すべきとされていること、法四条一四項は施設を限定して列挙しており、同項所定の施設として特定されて初めて公共施設に当たるものであることに照らすと、公共施設が前記法令所定のいずれの施設であるかは、協議の段階、遅くとも管理者や右施設の供用地の帰属者が定まる時点では特定していることを要するものと解される。公共施設については、その管理の適正を期するために、法三二条の協議により管理者を定めた場合等を除き、原則として管理者を定め(同法三九条)、右施設の用地については公共施設に関する工事完了の公告の日の翌日に管理者に帰属し(法四〇条二項)、従前の土地所有者は所有権を失うことを考えると、右のように解するのが相当である。したがって、単に公共施設というだけで、公共施設の内容が特定されない場合は、公共施設の用に供する土地ということはできないから、右公共施設の供用地とされる土地につき、法四〇条二項は適用されず、同条項により管理すべき者に帰属する効果は生じることはないものというべきである。

(二) 本件(五)の土地について見ると、前記争いのない事実及び証拠(乙一一の1、2、一二の1、一四の2、一五の1、二〇の3、4、三三ないし三八、五二、五四ないし五六、六三)並びに弁論の全趣旨によれば、第一審原告宮澤所有の右土地は、沢地であったが、同原告を含む七名が右土地を含む各所有地を「富士四丁目ニュータウン」として宅地造成するため右七名の代表事業主原において昭和五三年三月開発行為の許可申請手続きをするに当たり、同人と第一審被告千歳市との間で具体的な施設を定めずに公共施設として同第一審被告が管理し、同第一審原告から同第一審被告に対し無償提供する旨の協議が締結されたこと、昭和五三年三月三〇日石狩支庁の開発許可に基づく開発行為により右土地に盛土、整地する造成工事がなされたうえ、工事を完了した公共施設として「公共施設用地」との届出がなされた後、同原告の所有権移転登記の承諾書が作成され、同年一〇年一七日、同法四〇条二項に基づき同被告に所有権移転登記がされたこと、同被告は、右土地を売却して得た資金をもって信濃小学校用地を取得すべく、昭和六二年一一月二日、第一審被告菊池に売却したことが認められる。

右事実によれば、本件(五)の土地について、第一審被告千歳市は第一審原告宮澤から公共施設を具体的に特定せず単に公共施設用地の名目で提供を受けたものであり、同被告は、将来、何らかの公共施設ないし都市施設を設置する目的はあったものの、法四条一四項所定の公共施設として具体的に用いる計画はなく、現実に具体的な公共施設は設置されなかったものであるから、第一審被告千歳市は、法四〇条二項により本件(五)の土地の所有権を取得することはなかったものということができる。

(三) 第一審被告らは、本件(五)の土地は、公共施設である「広場」の用に供されたと主張する。乙六三中には、第一審被告千歳市は本件(五)の土地を含む右公共施設用地を将来的には運動広場、教育文化施設、社会福祉施設等の用地として活用することとし、当面は多目的な広場用地とする予定であった旨の記載があるが、開発行為の許可申請書に添付の関係書面(乙一一の2、12、一二の1)には、当初に広場とする趣旨で法三二条の協議が行われたとするならば、右設計説明書その他の関係書類、図面にはその旨特定して記載されるべきであるのに、その記載がなく、また、公共施設完了届書等(乙一五の1、2)にも、工事をした公共施設として広場の記載がなく、乙六三には右記載をしなかった理由については何ら触れるところはないことも考慮すると乙六三中の前記記載を直ちに採用することはできない。

なお、乙五二、五四ないし五六ないし五九によれば、本件(五)の土地は開発行為前は沢地状の低地であったところ、開発行為により盛土等の造成工事がなされ、その後本件(五)の土地とその隣接地は複数の住民が子供の遊び場や駐車場等に利用していたことがあることが認められるが、右土地が事実上空き地であったことを考えると右の利用状況から直ちに本件(五)の土地が法四条一三項、施行令一条の二所定の広場の用に供されていたと認めることはできない(事実上の空き地は、その利用目的によって公共施設である広場である場合とそうでない場合とがあるから、法が広場に関する技術的細目を定めていないことを理由に空き地を直ちに広場であるということはできない。)。

結局、本件(五)の土地は、開発行為の許可申請の手続において公共施設として広場の用に供する旨特定されていない上、乙三三ないし三五によれば第一審被告千歳市は本件(五)の土地につき所有権移転登記を受けた後も広場としての格別の利用計画を有していなかったことが認められ、これらの事実によると、第一審被告千歳市は、法四〇条二項所定の公共施設用地として本件(五)の土地を取得したものということはできない。第一審被告らの右主張は理由がない。

三  抗弁2(仮定抗弁(一)の本件(五)の土地に関する部分)について

乙一二の1、二〇の4及び弁論の全趣旨によれば、第一審原告宮澤は代表事業主原を通じて昭和五三年三月、第一審被告千歳市と法三二条の協議を行い第一審被告千歳市に本件(五)の土地を公共施設用地として無償提供する旨申出をし、法四〇条二項による所有権移転登記をすることの承諾書を提出したことが認められるが、右協議は、開発行為により設置される公共施設の管理者との間で、右施設の管理、その用地の管理者への帰属、右帰属に伴う費用の負担等について行われるものであって、右施設等の管理の引継を円滑に行うことなどにより管理の適正を確保することを目的とするものと解され、右協議の趣旨に照らすと、第一審原告宮澤から本件(五)の土地の無償提供の申出は、第一審被告千歳市が右土地を法四〇条二項により無償で取得することに異議がない旨の意思の表明と解することができるから、右申出をもって第一審原告宮澤の第一審被告千歳市に対する本件(五)の土地の贈与契約の申込みの意思表示があったものと評価することはできない。したがって、第一審被告らの主張は理由がない。

四  抗弁3(仮定抗弁(二)の本件(五)の土地に関する部分)について

数人で共同開発許可申請をする場合、組合契約が締結されたとみることができるかどうかについては疑義があるところであるが、仮に第一審被告らの主張するように第一審原告宮澤と本件(五)の土地の周辺土地の所有者との間に組合契約が締結されたと解されるとしても、第一審原告宮澤は本件(五)の土地の共有持分に基づき、第一審被告らに対し、共有物の保存行為として抹消登記手続を請求できると解されるので、第一審被告らの主張は理由がない。

五  抗弁4(仮定抗弁(三))について

前記認定事実及び乙一九並びに弁論の全趣旨によれば、第一審被告千歳市は、昭和五三年一〇月一七日に法四〇条二項により本件(五)の土地の所有権を取得したものと信じて右土地の管理を引き継ぎ、以後右土地を占有し、第一審被告菊池は第一審被告千歳市から右土地の占有を引き継ぎ、以下占有してきたものと認められるが、前記のとおり、第一審被告千歳市は、右土地を公共施設を特定することなくその用地として取得しようとしたものであり、同法条に照らすと右土地の所有権が同第一審被告に帰属しないことは明かであるから、同第一審被告が右土地の所有権を取得したと信じたことには過失があるというべきである。したがって、右占有の承継を主張する第一審被告菊池は、本件(五)の土地の時効による取得の要件を充足していないということができる。同第一審被告の主張は理由がない。

六  再抗弁1の(一)、(三)について(第一審原告ら三名の錯誤)について

1 第一審原告らは、本件(一)ないし(四)の各土地の所有権移転の錯誤による無効を主張する。法四〇条二項による公共施設用地の管理者への帰属は、公共施設の管理権の帰属者とその施設用地の帰属者とを一致させることにより、公共施設をめぐる権利関係の簡明化を図る趣旨に出たものであり、同条項による所有権の帰属は法律上当然に生じ、管理者の所有権取得は原始取得の性質を有するものと解される。右のように、管理者への同条項による所有権の帰属は法律行為によるものではないから、これが法律行為によることを前提とする錯誤による無効の問題は生じる余地はないというべきである。

2  第一審原告らは、法四〇条二項による所有権帰属は、法三二条による協議を前提とするものであり、右協議に錯誤がある場合は法四〇条二項による所有権帰属は無効になると主張する。しかし、同法では、右協議の成立は開発許可の要件とはされていない上、協議の不成立のまま、開発許可がなされ公共施設の設置がされた場合にも、管理者が定まり、法四〇条二項により右施設の用地は右管理者に帰属するとされるから、錯誤の有無は所有権の帰属を左右しないということができる。

3  しかし、第一審原告らにその主張の錯誤があったかどうかを念のために検討する。

(一) 再抗弁1の(一)の(1)、(2)のア、(4)のうち下水道工事が完了して本件(二)の土地が埋め戻されて更地となり第一審被告千歳市の普通財産に編入されたことは当事者間に争いがない。

(二) 同1の(三)において第一審原告佐々木及び第一審原告石神が引用する請求原因8のうち(一)、(二)の(1)、(四)のうち遊水池が不要であったこと及び下水道工事の着工、完成の時期を除くその余の事実、(七)、(八)の(1)の本件(三)、(四)の各土地を含む地域が火山灰土質であったことは当事者間に争いがない。

(三) 第一審被告千歳市の下水道事業について

(1) 前記二5(二)(4)で認定したとおり、本件(一)ないし(四)の各土地を含む各開発区域は、第一審被告千歳市が策定した公共下水道事業の基本計画の処理区域に含まれ、いずれは下水道事業が実施されることが予定されていた地域であり、右下水道が整備された場合には遊水池としての用途が廃止されることが予想されたが、開発行為の許可申請の当時においては、右下水道事業の具体的な実施の時期はいずれの開発区域についても未定であって、遊水池はこれを前提に設置することとされたものである。

(2) 右の事実及び証拠(乙三九の1ないし3、四〇、四一、四二の1ないし3、四三、四四、四五の1ないし3、四七の1、2、四八ないし五〇、五二、五四、五七、五九、六〇、六一、六三)並びに弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

ア 第一審被告千歳市は、昭和三〇年代から市内の下水道の整備を計画し、長期間にわたって逐次これを実施し、この間急激な都市化が進んだことなどにより適宜計画の見直し、変更が行われ、その実施状況及び将来の予定を毎年九月の広報紙で市民に知らせていた。

イ 第一審被告千歳市は、本件(一)ないし(四)の各土地を含む広い地域の下水道計画の変更について昭和四八年六月に建設大臣から認可を受けていたが、個々の地区にかかる下水道事業の実施時期は、市街化の状況、放流先の河川の状況、予算の見通し等の要素を勘案して直前に決定されるため、第一審原告ら三名が本件(一)ないし(四)の各土地の開発行為を申請した昭和五〇年当時(本件(一)、(三)、(四)の各土地)及び昭和五三年当時(本件(二)の土地)は、処理区域内の個々の地区の事業実施時期は定まっていなかった。

ウ 第一審被告千歳市は、本件(一)ないし(四)の各土地が所在する地域について次のとおり下水道工事を行った。

A 本件(一)の土地

着工 昭和五六年五月

完了 同年八月末

工事内容 汚水、雨水処理施設

B 本件(二)の土地

着工 昭和五九年一一月

完了 昭和六〇年一〇月

工事内容 汚水、雨水処理施設

C 本件(三)、(四)の各土地

着工 昭和六一年九月

完了 昭和六三年一〇月

工事内容 汚水処理施設(雨水にかかる下水道計画は放流先の河川の流下能力等に問題があるため、現在でも実施の目処は立っていない。)

(四) 第一審原告ら三名は、それぞれが開発行為の許可申請をした当時、本件(一)ないし(四)の各土地を含む地域には近い将来に下水道工事が完成し、設置される遊水池は不要となって廃止されることが確実に予想されたのに、遊水池が必要である旨、第一審原告石神は、本件(三)、(四)の各土地は火山灰土質で極めて浸透性が高く、遊水池は不要であるのにこれが必要である旨それぞれと誤信した旨主張し、設置された遊水池の中にはその後用途廃止されてその用地が第一審被告千歳市の普通財産に編入されたものもあるが、遊水池が開発区域に必要な施設であったことは前記二5(二)(4)で説示したとおりである上、右認定の第一審被告千歳市の下水道事業の実施状況によれば、第一審原告らが開発行為の許可申請をした当時、遊水池が近い将来不必要になることが確実に予想されたということはできず、他に右主張を認めるに足りる証拠はなく、遊水池の必要性がないことを前提とする第一審原告ら三名の錯誤の主張は採用することができない。

(五) また、第一審原告ら三名は、法三二条による協議においては、公共施設の用地を必ずしも無償提供する必要はなく、第一審原告らが自ら公共施設を管理し、あるいは第一審原告らを用地の所有者としたまま管理者のみを第一審被告千歳市とすることも可能であったことを知らないまま遊水池の管理者を第一審被告千歳市として用地を無償提供しなければ開発行為の許可が受けられないものと誤信したと主張するが、第一審原告らと第一審被告千歳市との間の法三二条の協議の過程や内容に何ら違法な点はなく、開発許可申請の主体として当然知っていなければならない法の規定を第一審原告らが知らなかったとしても、三二条所定の前記の協議の効力に影響を与えるものとは解されず、この点に関する錯誤の主張も採用することはできない。

七  再抗弁2(権利濫用)について

第一審原告らは、再抗弁1を引用して権利濫用の主張をするが、その理由のないことは、前記六で説示したとおりである。

八  再抗弁3(解除条件)

第一審原告ら三名と第一審被告千歳市との間で、遊水池が不要になって埋め戻されたときはその用地である本件(一)ないし(四)の各土地を第一審原告ら三名に返還する旨の合意があったことを認めるに足りる証拠はなく、第一審原告ら三名の右主張は採用することができない。

九  以上の次第であるから、第一審原告佐々木、同石神の本訴主位的請求、第一審原告宮澤の本件(二)の土地にかかる主位的請求は理由がなく、第一審原告宮澤の第一審被告千歳市、第一審被告菊池に対する本件(五)の土地にかかる主位的請求は理由がある。

第二  第一審原告佐々木及び第一審原告石神の当審における予備的請求について

第一審原告佐々木及び第一審原告石神は、請求原因8において第一審被告千歳市が不要な遊水池を設置させることとし、その用地である本件(一)、(三)、(四)の各土地を無償提供する必要がないのに第一審原告らの無知に乗じてこれを取得して損害を与えたなどと主張するが、前記第一の六で説示したとおり右主張は採用することができず、第一審原告佐々木及び第一審原告石神の予備的請求は理由がない。

第三  結論

よって、第一審原告ら三名の本訴請求中第一審原告宮澤の第一審被告千歳市に対する主位的請求及び第一審被告菊池に対する請求は理由があるが、その余の請求はいずれも理由がなく、これと同旨の原判決は正当であるから本件控訴をいずれも棄却し、当審で追加された第一審原告佐々木及び第一審原告石神の予備的請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官宗方武 裁判官小野博道 裁判官土屋靖之)

別紙物件目録

(一) 所在 千歳市北光三丁目

地番 六九五番九九

地目 雑種地

地積 七九七平方メートル

(二) 所在 千歳市富士四丁目

地番 七六九番九

地目 雑種地

地積 九七二平方メートル

(三) 所在 千歳市自由ケ丘二丁目

地番 七九八番二八

地目 雑種地

地積 三六九平方メートル

(四) 所在 千歳市自由ケ丘二丁目

地番 七九八番二九

地目 雑種地

地積 四〇六平方メートル

(五) 所在 千歳市富士四丁目

地番 七六九番八七

地目 宅地

地積 447.44平方メートル

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